そこは暗くて…独りで生きて行くんだとばかり思っていた。
周りに何もなくて…だから何もいらないって虚勢ばかりはっていた。
それなのに…。
気がつけば、側にいてくれたんだね。
それはまだ、2人が出会う少し前のお話。
目を覚ます。周りは闇。
何にも無い、……深淵。
溜息一つ、知らずに零れた。
………覚めたつもりなだけかよ……。
夢の続きはやっぱり夢で…目覚める事はまだできないのを知る。
だりぃ……。
そんな言葉で誤魔化して、闇の中、ゆっくりと足を進める。
パキン…パキン……
足の下で響く渇いた音。
その音が知らせる…忘れるなと。
シニタクナカッタ……
イキテイタカッタ……
コワイ……コワイ……
ナンデ…コンナメニ?
幸せになるなんて許さないと、音は知らせる、言い聞かせてくる。
大丈夫だよ…俺は何も望まないから。
身体中に纏わり付いてくる、アカイ闇。
この闇を纏わりつかせたまま、ここに倒れたら…少しは楽になるんだろうか。
……楽に?
苦しい事なんて、なんにもないのに、どうしてそんなことを考えるんだろうね?
自嘲笑。
あぁ…はやく目が覚めないかな。
目が覚めてもなにも変わりはしないけれど、
やっぱりこの闇の中は…ダルイ。
なにも考えないつもりなのに…頭の中に言葉が巡る…巡る…。
コワレテシマイナサイ?
ナニモナイホドニコナゴナニ。
ダレモ…ミテハクレナインダカラ。
ソンザイヲ、ヒテイサレタコドモ…。
そうだね、壊れてしまおうか。
…ううん。解き放ってしまおうか。
そうしたら…なにも頭には浮かばないから。
『ウズマキナルト』でいなくても…誰も困らないよね?
纏わりつくアカい闇に、そのまま沈もうとしていた。
刹那。
不意に周りを包みこむ、明るい光。
柔かな光に、アカイ闇が消し飛んだ。
……なんだ?
眉を顰める俺の前で、その光は人の形を成して、眼の前に立つ。
周りは闇、それでも…いつもと違う、暖かい闇。
俺の前にいる光の人は、ゆっくりと俺の頬に手を伸ばし、触れて…。
……笑んだ。
『……まだ側には存在できないけれど…貴方の側に…いるから…。
…哀しい思いに…身を沈めないで……。
もうすぐ…貴方の側に現れるから…。
…マケナイデ
ナルト……くん……。 』
暖かい声ではない声。
伸ばされ、振れる手から伝わる強さ。
『……約束…するから……ううん…約束じゃない…待ってて…欲しいの…』
柔かな空気を纏って…そのまま消えた光。
同じに俺も夢から覚めて…。
「……はは……嘘…だろ…?」
目から零れているものに気付いて笑いが零れた。
心のなかがふんわりと暖かくて…苦しくて…。
俺はあの時、はじめて声を上げて泣いた。
「ナルト……くん?」
不意に笑いだした俺の隣で、ヒナタが不思議そうな声で俺の名前を呼ぶのが聞こえる。
まだヒナタにあう前の夢。
いつもの森のその中で…ヒナタに寄り掛かってまどろんでいて、不意に思い出したそのことに、思わず笑った時の事。
あの時は、光が誰なのかわかんなかったけど…
多分…それは俺の隣に今いる……。
「…アリガトウな?ヒナタ」
「………???」
不意に零れたその言葉に、ヒナタが更に不思議そうな顔をして首を傾げた。
そんな様子がおかしくって、俺はまた笑った。
「気にしなくってもいいよ」
あの時に光に酷く似た空気を纏ったヒナタ。
気づかねえうちに…それに酷く救われている俺。
なぁ?どうして俺の側にいてくれるの?
不安な気持ちは消えないけれど…それでもこの光を手放したくないと今は思う。
俺を救ってくれた光。
俺の存在を…守ってくれたこの光を。